2026.4.24
日常の道具に宿す、デザインの力。
「SAKASANANO」が切り拓く、
傘の新しい可能性
プロジェクトチーム スペシャルインタビュー後編
最新技術と構造を掛け合わせ、「最高の雨傘」として生まれ変わった「SAKASANANO」。ウォーターフロント代表取締役の吉野哲、プロジェクトリーダーの大島裕貴、クリエイティブディレクターの石黒篤史さん、プロダクトデザイナーの角田陽太さんの4人は、2023年からリニューアルプロジェクトを進めてきました。
前編に続く後編では、クリエイティブの視点を中心に、「SAKASANANO」がどのように形作られていったのかに注目。今、盛り上がる傘市場のなかで、この傘がこれからどんな未来を描いていくのか、それぞれの想いとともに、語り合いました。

●道具としての合理性を、ひとつの造形へ。
── 「円柱」というデザイン言語への集約
プロダクトとしての思想や世界観をかたちに落とし込むうえで、今回の「SAKASANANO」では、デザインそのもののあり方も大きく見直しました。
――角田さんは、プロダクトデザイナーとしてどんな視点を持ってこのリニューアルに臨みましたか?
角田:これまでの「Sa傘(サカサ)」のデザインは要素がたくさん詰め込まれていて、いうならば、デザイン言語が散らばっているような印象がありました。そこで今回は、すべてを「円柱」という一つの言語に集約しようと思ったんです。一本の傘を、一つひとつのパーツの組み合わせとしてではなく、一つの彫刻のように捉え直す。そうやって全体を整理することで、「Sa傘(サカサ)」ならではの構造や機能が、より際立つようになると考えました。
石黒:ハンドルのモックが上がってきたとき、正直しびれました。普通はもう少し内側にカーブを持たせるところを、持ちやすさを考えた最小限のアールでとどめて、スパッと垂直に切ることで、あえて違和感を残している。その違和感こそが、今回のデザインのテーマを象徴していると思います。
角田:例えば、ハンドルの先を球体にしてしまうと、そこに「球」という別のデザイン言語が生まれてしまう。すべてを「円柱」で統一するために、どこで切るか、どこまで削るかは、かなりシビアに調整しています。
大島:シャフトや内部構造も含めて、すべて「円柱」というテーマに合わせて見直しています。もともと六角形だったシャフトを円柱に変えるとなると、当然、中の構造もすべて変えなければならない。二重構造ならではの空気抜きの穴も、数や大きさを最小限まで調整しました。開きやすさと見た目の美しさ、そのギリギリのバランスを、何度もすり合わせています。

●心地よさは、細部から生まれる。
──細部に宿る完成度
「円柱」という明確なデザイン言語のもと、全体像が定まっていった「SAKASANANO」。
しかし、その完成度を支えているのは、目に見えにくい細部と、それを実現するための現場での積み重ねでした。2023年から続いたリニューアルの過程で、チームはどんな試行錯誤を重ねてきたのでしょうか
――今回のリニューアルで、特にこだわったディテールや、印象に残っていることを教えてください。
大島:実は、一番大変だったのは縫製でした。縫い目の運針、つまり糸の幅ですね。そこをすべての縫製箇所で統一してほしい、と角田さんに言われたんです。ただ、縫う場所ごとにミシンも違えば、担当する人も違う。正直、現場からは「なぜそこまでやるのか」という声もありました。でも、ここはノイズをなくすためにどうしても必要なこと。なんとか説得しました。
角田:デザインは、頭で理解するものというより、肌で感じるものだと思っています。日常に使う道具である傘だからこそ、そのデザインはより心地いいものにしたい。縫い目の幅も、一見すると意識されない部分ですが、揃っていることで全体の印象に確実に効いてくる。売上や愛着と、決して無関係ではないんです。なので、細かいところまでこだわり抜きました。でも途中から、「ここも揃えておきました」「直径を統一してもいいですか?」と、現場のほうから提案が出てくるようになって。自分が指摘することが、だんだん減っていきましたね。
大島:目線が合っていく感覚は、確かにありました。そもそも最初は「整っていない」という自覚自体がなかった。でも、角田さんのデザイン案を見て、やればやるほど解像度が上がっていく。外部のデザイナーにプロダクト全体を委ねるのは、ウォーターフロントとしても初めての挑戦でしたが、今回のプロジェクトは、ウォーターフロントのこれからのものづくりを広げていく、一つの良い事例になったと思っています。

●「SAKASANANO」から、その先へ。
── 傘の価値と、ウォーターフロントのこれから
「SAKASANANO」は、一つの完成形でありながら、ウォーターフロントのものづくりを次へとつなぐ存在でもあります。この傘をきっかけに、これからどんな傘を、どんな価値を届けていきたいのか。プロジェクトの最後に、それぞれの思いを聞きました。
大島:この「SAKASANANO」は、売れるかどうかも含めて、正直かなりチャレンジングな取り組みで、責任も感じれば、怖さもあります。でも、その一方で、これをきっかけに雨傘の基準そのものが少し変わっていくなら、それは意味のあることだと思っています。「撥水」で雨傘を選ぶ人が増えていくこと。これまで探していた人にも、これから探し始める人にも、満足が届いていくこと。そんな存在として、これからどう育っていくのかを、見届けていきたいですね。
石黒:プロダクトとしては、細部まで突き詰められた、申し分のないものが完成したと感じています。だからこそ、これからが本当の挑戦だと思っています。この傘の価値をどう伝え、「長く使い続ける」という考え方をどこまで社会に浸透させていけるのか。理想は、意識せずに手に取られる存在になること。使うことで所作や気分が少し整い、誰かに話したくなる。そんな小さな会話が、プロダクトと人との距離を縮めてくれたら嬉しいですね。

吉野: 私たちが大切にしているのは、傘という道具を通して、クオリティ・オブ・ライフを高めていくことです。今回の「SAKASANANO」は、その考え方をしっかり形にできた、納得のいく一本になったと思っています。一方で、傘はあくまで実用品でもあるので、これからも手に取りやすい価格帯の傘を多くの人に届けていくことも、私たちの大切な役割です。その両方を、同じ目線で続けていきたいですね。今回の私たちの発信がきっかけとなって、傘という道具の価値が広がっていけばいいなと思っています。
角田:「普通の傘といえば、この形」と自然に思ってもらえるものを整えていくことができたら、それはクオリティ・オブ・ライフを底上げする一歩になるはずです。そして、今後も大切にしていきたいのは、「長く使いたくなるもの」をつくること。僕自身は、サステナブルという言葉を、素材そのものの良し悪しだけで語りたいとはあまり思っていません。愛着が生まれれば、人は簡単に手放さなくなる。そこにこそ、デザインの力があると信じています。
- PROJECT MEMBER
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株式会社ウォーターフロント 代表取締役社長
SATOSHI YOSHINO
𠮷野 哲
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株式会社ウォーターフロント SCM部 部長
YUKI OSHIMA
大島 裕貴
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OUWN Creative studio
ATSUSHI ISHIGURO
石黒 篤史
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YOTA KAKUDA DESIGN
YOTA KAKUDA
角田 陽太