2026.4.24
あの「Sa傘(サカサ)」が、ここまで進化。
SAKASANANOが目指した
「最強の撥水傘」とは?
プロジェクトチーム スペシャルインタビュー前編
逆折り構造で注目を集めてきた「Sa傘(サカサ)」が、「SAKASANANO」としてリニューアル。目指したのは、撥水性・構造・思想を磨き上げた「最高の雨傘」です。
2023年からプロジェクトを進めてきた、株式会社ウォーターフロント代表取締役の吉野哲、プロジェクトリーダーの大島裕貴、クリエイティブディレクターの石黒篤史さん、プロダクトデザイナーの角田陽太さん。4人の言葉を通して、リニューアルの背景と、その完成に至るまでの試行錯誤をひもときます。

●最先端技術が導いた、「最高の雨傘」。
── SAKASANANO プロジェクトのはじまり
手に取りやすい価格帯のベーシックな傘から、高い機能性を備えたモデルまで幅広く展開し、日常の不便やストレスに向き合ってきた、ウォーターフロント。
近年ではUVカット率100%、遮熱率最高値67%を叶える高機能日傘「COKAGE+」や、強力な雨・風・日差しまでしのげる全天候型の傘 「ZENTENKOU」など、構造や素材に踏み込んだプロダクトを世に送り出してきました。なかでも「Sa傘(サカサ)」は、濡れた面を内側に畳むという逆転の発想で、雨の日のストレスを軽減する傘として注目を集めてきた存在です。
――今回のリニューアルには、どのような背景があったのでしょうか?
大島:僕は、雨傘にとって「撥水性」はとても重要なものだと思っているのですが、使っているうちに、大気中の汚れや手の油分が付着して、どうしても撥水性が落ちてしまう。そうすると、まだ見た目はきれいでも、捨てられてしまうことも多いんです。そこで、ピンときたのが、外側の傘布、つまり撥水面に手が触れない「Sa傘(サカサ)」の構造です。
傘を閉じたときに濡れた面が内側になるため、手や洋服を濡らさない、車の乗降時に雨濡れを軽減できる、自立するので傘立てがいらない、といった、これまでも好評をいただいていた機能面はそのままに、「Sa傘(サカサ)」だからこそできる、「最強の撥水傘」を追求したいと考えました。

――今回のリニューアルで最も変わった点は、どんなところですか?
大島:まず大きく変えたのが、傘生地です。これまでの「Sa傘(サカサ)」は、構造がかなり独特だった分、素材面では限界もありました。今回はそこに、東レの「NANODESIGN®︎」という新しい特許技術を用いた生地を採用しています。 「NANODESIGN®︎」は、糸そのものの構造をナノレベルで設計できる技術。糸の断面形状や太さを組み合わせることで、糸の表面に微細な凹凸をつくり、その構造によって撥水性を高めることができます。薬剤のみに頼らず、糸の構造そのもので水を弾くのが特長です。今回は、この技術を使って複数の糸を組み合わせた撥水生地を開発し、撥水性能を長く保つことを目指しました。
吉野:やはり、日本で繊維素材といえば東レ。私たち自身、常に「一番いいものを」目指しているなかで、非常に心強いパートナー企業でもあります。2024年に発売した日傘、「COKAGE+」は、東レの「サマーシールドⅡ」によって実現し、お客様からの支持も得られました。「最高の日傘」の次は「最高の雨傘」にチャレンジしよう! ということで、今回改めて東レとタッグを組むことになりました。

●捨てない、更新する。
── 張り替えという選択が変える、傘の未来
撥水性の高い傘をつくるうえで、避けて通れないのが環境への配慮です。これまで撥水加工などに使われてきた化学物質PFAS(ピーファス)は、環境汚染のリスクが指摘され、アパレル分野を中心に規制が進みつつあります。傘は現時点では規制対象外とはいえ、繊維業界全体として、対応は不可逆的な流れになっています。
――撥水とサステナブル、その両立は簡単ではなかったのでは?
大島:我々、傘業界にとっても、特定PFAS規制の問題は、正直、やる・やらないの話ではなくて、業界として必ず向き合わなければいけない課題だと感じています。ただ、環境に配慮すればするほど、どうしても性能が落ちてしまうというジレンマがありました。今回、国内法規制に適合した、特定PFAS(PFOA、PFOS、PFHxS等)不使用の撥水剤で優れた撥水効果を実現する「NANODESIGN®︎」という技術に出会えたことは、傘の未来を考えるうえでも大きかったと感じています。
――張り替えができる仕組みも、サステナブルな特徴のひとつですよね。
大島:はい。使い続けているうちに撥水性が落ちてしまったとしても、生地だけを交換できれば、骨まで一緒に捨てる必要はありません。傘は分別が難しく捨てにくいものでもあるので、街中に放置されたり、忘れ物として置き去りにされたりする背景もあります。張り替えができることで、環境面でも無駄を減らせますし、使う側にとっても、納得感のある選択になると思いました。将来的にもっと性能の高い撥水生地が生まれたら、まるでスマートフォンのように、生地だけをアップデートする、というようなこともできるかもしれません。使う方と一緒に、傘を育てていけたらいいなと思っています。
石黒:今回のこうした取り組みは、一つの傘ブランドの見え方というより「傘の概念」そのものをどう世の中に提示するか、という話だと思いました。だからこそ、企業としての意思を示す意味で、いつもとは違う、コーポレートロゴを使う判断をしました。一つの挑戦として、それをきちんと見せていくことが大切だと思ったんです。

●「語りたくなる傘」を目指して。
── 合理性を、感情につなぐクリエイティブ
機能や素材、環境への配慮といった要素を重ねながら進められてきた「Sa傘(サカサ)」のリニューアル。その最終的なかたち作っていったのが、クリエイティブとデザインの視点でした。
――クリエイティブディレクターとして、今回のリニューアルで目指したのは、どんなことでしょうか?
石黒:今回目指したのは、「便利だから使う」から一歩先の、持っていて気持ちがいい、「語りたくなる」傘です。
「Sa傘(サカサ)」は、構造や機能について話せるポイントがとても多いプロダクト。だからこそ、それらを一つひとつ、ユーザー自身が語りたくなる存在にしたいと思いました。合理性だけでなく、持っている自分を少し誇らしく思える。だから長く使いたいと思う。その感覚まで含めてデザインしたい、というのが今回のテーマです。

――単なる高機能な傘ではなく、使う人の気持ちや日常の風景にどう寄り添うか。長年ものづくりの思想を培ってきたウォーターフロントの想いと、デザインを掛け合わせるなかで、最も大切にしたことは何でしょうか?
石黒:一番大切にしたのは、「変えすぎない勇気」だったと思います。ウォーターフロントには、長年積み上げてきた思想と技術があり、それ自体が大きな価値です。デザインで何かを足すというよりも、すでにある良さをどう整理し、どう伝わりやすくするか。そこに必要なのは、角田さんの視点だと思ったんです。
角田さんは以前から存じ上げていて、無印良品でのプロダクトデザインなどを通じて、合理性と感情の距離感がとても優れた方だと感じていました。「Sa傘(サカサ)」は、すでに完成度の高い構造を持っています。だからこそ、過剰に手を加えるのではなく、その合理性を深く理解したうえで、さりげない優しさやちょっとした違和感を添えられる方にお願いしたかった。確実に新しい表情を与えてくれる、そのバランス感覚に期待していました。
>>続く後編では、クリエイティブとデザインの視点から、「SAKASANANO」の細部に注目。この傘が描く未来を、4人の言葉とともに追っていきます。
- PROJECT MEMBER
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株式会社ウォーターフロント 代表取締役社長
SATOSHI YOSHINO
𠮷野 哲
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株式会社ウォーターフロント SCM部 部長
YUKI OSHIMA
大島 裕貴
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OUWN Creative studio
ATSUSHI ISHIGURO
石黒 篤史
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YOTA KAKUDA DESIGN
YOTA KAKUDA
角田 陽太